須尚正 

 あっ!

 鼓膜に大音量が飛び込んできた。

 瞬間、ヘッドフォンを投げ捨てた。

 なんてことを……、

 試聴用プレーヤーの音量が最大になっていた。

 外資系メガチェーンの調査のために頻繁に店舗を訪問していた。
 品揃えや価格などを調べていたのだ。
 その中で、あるものに注目した。
 CDの試聴コーナーである。
 当時、日本ではCDを試聴できる店はなかった。
 だから、客はラジオやテレビで聞いた音楽を買い求めに来ることが多く、自分が知らないミュージシャンのCDを買うことは少なかった。
 例外的に、音楽マニアが〈ジャケ買い〉と称してアルバムデザインや帯に書かれた説明書きを読んで直感で買うということが行われていたが、それはあくまでも例外だった。

 しかし、この外資系メガチェーンは違っていた。
 お勧めのCDを棚に並べて、それを試聴できるようにしていたのだ。
 これなら好みの音楽かどうか確認した上で購入することができる。
 当たり外れの心配をせずに済むのだ。
「当たり外れがあるから面白いんだよ」という一部のマニアもいるが、それは一般の客には通用しない。
 2千円をドブに捨てる酔狂な人は皆無に等しかった。

 このシステムは画期的だと思った。
 だから色々なジャンルのお勧めCDを試聴した。
 自社・他社問わず色々なCDを聴いて回った。