残念ながら、轟の懸念は当たってしまった。
 全国のレコード店は急激にその数を減らしていった。
 メガチェーンの攻勢による淘汰が始まったのだ。
 レコードとCDを足した売上はまだ増えていたので制作側に危機感はなかったが、轟には不気味な足音がしっかりと聞こえていたのだ。

 彼女が予測した通り、メガチェーンでCDを購入する人が増加していて、その流れは加速していた。
 品揃えの豊富さに加えて、価格とポイントの魅力が音楽ファンの心をがっちりと掴んだのだ。

 それだけではなかった。
 市場規模に変化が生じ始めていた。
 1998年まで伸び続けたCDの売上がピークを打った。
 音楽ソフトの売上が減少する時代に入ったのだ。

「これからの新しい潮流への対応を考えて欲しいの」

 轟の視線には、いつもと違う目力(めぢから)がこもっているように思えた。

 その理由を知ったのが、47歳の春だった。
 新たな辞令が下りたのだ。
 それは期待していた営業部長のポストではなかった。

『企画部次長を命ず』

 営業部から企画部への異動辞令だった。
 轟が自分を営業部から引き抜いたのだ。

 営業部長へ、そして、取締役へと昇進の道を期待していた須尚は轟を恨んだ。

 あと一歩のところまで来ていたのに、なんで……、