その翌月もミーティングルームでコーヒーを飲みながらお互いが持つ情報を交換した。
 こちらからは好調な売上を報告して絶好調であると自慢げに(まく)し立てたが、彼女はそんなことには興味がないというふうに発言を遮った。

「この状態はいつまでも続かないわよ」

 前年に企画部長に昇進したばかりの轟は将来の変化に意識を集中していた。

「仕事のやり方を変えないと、大変なことになるわよ」

 厳しい口調で懸念を表した。

「取引先の選別に着手したほうがいいんじゃない?」

 確かに、CDやレコードの流通で新しい動きが始まっていた。
 1980年に日本に上陸したアメリカのレコード販売チェーンが大規模店舗を全国大都市に展開し始めていたのだ。
 そして、当初は輸入盤の扱いだけだったが、次第にJ・POPなどの邦楽を扱い始め、急激にそのシェアを伸ばしていた。

「日本の零細なレコード店が駆逐(くちく)される日が来るわよ」

 まだその動きは感じられなかったが、彼女は確信をもっているように明言した。

「それに、うちの主力の洋楽への影響が出始めるわよ」

 その指摘は現実のものになろうとしていた。
 自社で販売する洋楽CDと同じものが直輸入盤として安く売られていたのだ。
 日本仕様には解説書や歌詞の和訳などを付けていたので、どうしても高くなる。
 しかし直輸入盤は簡素な包装もあって、日本仕様より2割から3割安いものが出回っていた。