「あなたが東京に来てからもう5年になるのね」

 関東支店長就任を自分のことのように喜んでくれたあと、轟は目を細めてあの日のことを思い出しているようだった。
 その様子を見ていると、当時のことが蘇ってきた。

 5年前、東京エリア長に就任して挨拶に行った時、彼女は再会を殊の外喜んでくれた。
 そして、企画部と営業部の連携強化を実現するために力を合わせていこうと誓い合った。
 それだけでなく、初めてスナッチだということを告白した。
 しかし驚きの表情は表れず、「知っていたわよ」と事も無げに返された。
 それでも顔が曇るのに時間はかからなかった。

「あなたには本当に申し訳ないと思っているの。あの時あなたが抱いていた危惧をもっと真剣に受け止めて体を張って企画部長と対峙(たいじ)していたらと思うと」

 そこで声が消えた。
 顔には暗い影が射していた。
 ビフォー&アフター分裂の責任を今までずっと引きずっていたのに違いなかった。

 そんなことはないと伝えるために強く首を横に振った。
 あなたの責任ではないし、一旦おかしな方向に行き始めると、その流れを変えるのは難しいと強調した。

「必然だったんです」

 強く言い切ると、彼女は微かに笑みを浮かべた。

「ありがとう」

 自責の念が少し薄らいだのか、ほっとしたように息を吐いて肩を下ろした。

 あの日以来、轟とは非公式な会合を定期的に持つようになった。
 業界の動きや競合他社の情報を共有しようということになったのだ。
 だから、関東支店長に就任した日、更なる連携強化と情報交換の頻度アップを確認し合ったのは自然なことだった。