「ちょっと不安……」

 大阪での生活にやっと慣れてきた妻は、東京という別格の大都市での生活に戸惑いを感じたようなのだ。
 その上、娘の麗華(れいか)が幼稚園に上がる年齢になっていた。

「東京で友達ができるかしら」

 大阪弁が身についた娘のことが心配でたまらないというように眉をひそめた。

「子供はすぐに慣れるから大丈夫だよ」

 安心させようと柔らかく否定したが、そんな慰めはなんの役にも立たなかった。

「子供の世界はあなたが思っているほど可愛いものじゃないのよ。虫を平気で踏み潰すような残酷な面を持っているのよ。大阪弁を笑われるくらいならいいけど、そのことで入園初日から仲間外れにされることだってあるかも知れないし。それに、大阪と東京では習慣が違うでしょう。それにも慣れないと」

  妻の心配はどんどん膨らんでいった。
 それは母親として仕方のないことかもしれなかったが、東京で生まれ育った自分にはピンとこなかった。
 考えすぎだとしか思わなかった。