須尚正 

 30歳で大阪エリア長として赴任した須尚は、美麗との新婚生活を楽しみながらも、九州とは遥かに規模の違う大市場の開拓に全精力をつぎ込んでいた。
 営業部の最年少記録を塗り替える抜擢に意気を感じていたのだ。
 初めて経験するマネジメントの難しさに直面して戸惑うことも多かったが、澤ノ上教授の教えやアメリカの著名経営学者などの本を参考に『人を活かすマネジメント』を実践していった。
 特に重視したのは、長所を伸ばす指導だった。
 短所を指摘して改善を促すよりよっぽど効果が高いと思ったからだ。
 そのために『褒めるマネジメント』に力を入れた。

 これは反面教師から学んだものだった。
 上司である大阪支店長は猪突猛進型で、先頭に立って突き進んでいくブルドーザーのような人物で頼もしくはあったが、反面、激高することが多く、指示に従わない者や成果を出せない者に対しては厳しい叱責を飛ばした。
 それは聞くに堪えない罵詈雑言(ばりぞうごん)に至る場合もあり、部下が委縮するだけでなく、顔色を窺ってへいこら(・・・・)する者も少なくなかった。