笑美に背中を押されるようにしてアメリカに旅立った。
 彼女と離れ離れで暮らすのは辛かったが、新たな使命に燃えてもいた。
 会社の将来へ向けた種まきを任されていると思うと、全身に力が漲ってくるのを感じた。
 だから、日に1回笑美に電話をする時以外は新たな任務に没頭することに決めた。
 
 連絡事務所は情報収集が主目的であったため、FDA(アメリカ食品医薬品局)の本部に近いワシントンD.C.に設置することにした。
 言わずと知れたアメリカの首都であり、政府所在地であり、あらゆる情報が集まる場所であり、これ以上最適な環境があるはずはなかった。

 ホテルに荷物を置くとすぐさま学生時代の人的ネットワークを駆使して事務所に最適な場所の選定を始め、紹介された物件を次々と見て回った。
 価格で断念した物件もあったし、環境に懸念を覚えて断った物件もあったが、8軒目で遂にこれという物件に巡り合った。
 ポトマック川沿いのジョージタウンという場所にある中層ビルだった。
 ホワイトハウスや連邦政府庁舎が近隣にあり、対岸には国防の中枢、ペンタゴンの広大な敷地があった。
 最上階の空きスペースから見下ろすと、世界一の権力と世界中の情報が集まる場所をすべて掌中に収めたような錯覚に襲われた。
 すると、今までに感じたことがないような緊張と成功への強い衝動が交差した。