笑美との絆を深め、将来の事業構想に思いを馳せ、公私共に大きな収穫を手にして帰国したが、ホッとする暇は与えてくれなかった。
 新婚生活を始めたばかりだというのに、父親である社長から特命が下りたのだ。

「アメリカに連絡事務所を開設する。準備室長兼務を命ずる」

 DDSプロジェクトの良好な進捗に気を良くした父親が、念願のアメリカ進出に向けて布石を打ったのだ。
 アメリカに留学し、知人も多く、現地の情報に詳しい最上に白羽の矢が立ったのは当然のことだったが、それは、新婚早々単身赴任をしなければならないことを意味していた。
 月に一度帰国できるかどうかという生活が始まるのだ。
 そのことを告げると、意外にも笑美は気丈に振舞った。

「わたしなら大丈夫。心配しないで。あなたが留学した時の心細さに比べたら、今回は全然平気」