翌月開かれた取締役会で製剤研究に対する大幅な研究費の増額と人員増が承認された。
 最上は〈DDSプロジェクト〉のリーダーとして、主力薬の持続製剤開発の先頭に立つことになった。
 すぐさま社外の専門家を採用して、一気に開発を加速させた。 

 今回の開発は新規成分ではないため、今まで蓄積した研究や臨床データが活用できるという利点があった。
 そのため、動物実験を短期間で終わらせることができた。
 その結果、1日1回服用で効果が期待できる持続性降圧薬の第一相臨床試験を早期に始めることができた。
 この試験で健常人に対する安全性が確認できれば、少数の患者に対して安全性と有効性を確認する第二相の臨床試験に早期に進めることができる。
 そして、より多数の患者を対象とした第三相臨床試験で同等性が証明できれば、新規の作用機序を持つ薬ではないため、厚生省の認可もスムーズに下りる可能性が高い。
 そうなれば、他社に先駆けて発売することができる。
 大きな差別化につながるだけでなく、主力薬のライフサイクルを大きく伸ばすことができる。
 その上、画期的な新薬を開発するまでの猶予期間を得ることができる。
 DDSプロジェクトは最上製薬にとって救世主プロジェクトになった。
 
 まだ何も成果が出ていない新薬開発に負い目があり、自分が一人前ではないというネガティヴな意識を持っていたが、DDSプロジェクトのリーダーとして具体的な進捗を得ることによって、自信を取り戻すことができた。

 これでやっと笑美にプロポーズできる。

 思わず安堵の息が漏れた。
 目を閉じると、彼女がまだ高校生だった頃の姿が浮かび上がってきた。
 愛を育んできたかけがえのない日々が蘇ってきた。
 それは10年にも及ぶ2人の軌跡だった。
 すると初めて結ばれた時に彼女に告げた言葉が蘇ってきて、もう一度彼女に告げなければという想いが強くなった。
 だから敢えてそれを口に出した。
「世界一幸せにするからね」