最上極 

 笑美が20代の間に花嫁衣裳を着せてやりたい。

 30歳を目前にしてその想いが強くなっていたが、新薬開発が思うように進んでいない状態で家庭を持つという決断が中々できなかった。
 自分が一人前になっていないのに、笑美の親に結婚の承諾を得に行くのは早すぎると思っていた。
 だから彼女と顔を合わせる度に、もう少し待って、と心の中で謝るように呟いた。
 
 週末、いつものように笑美と公園を歩きながら互いの近況を報告し合ったあと、池の畔のベンチに腰かけた。
 天気が良いせいか、ボートを楽しむカップルや池の周りの芝生で弁当を広げている家族など、至る所から賑やかな笑い声が聞こえてきた。

 暫らく辺りを眺めていると、老夫婦らしき2人が杖を突きながらこちらの方へ歩いてきた。
 そしてすぐ近くで立ち止まり、あれがカイツブリで、あれがカルガモと、指を差しながら楽しそうに話し始めた。
 すると絵美が立ち上がったので、すぐに最上も従った。
 2人に声をかけて席を譲ると、嬉しそうに頭を下げてベンチに座った。