成人病以外の領域で戦える新薬、
 それが癌と難治性疾患だった。
 しかしそれは成功確率の低い困難を極める開発であることを意味していた。
 その領域に開発を絞るリスクは余りにも大きく、当然ながらよくわかっていたが、しかし、ある言葉が使命感に火を点けていた。

 それは『アンメット・メディカル・ニーズ』

 アメリカでよく耳にした言葉だった。
 有効な治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズのことで、その治療薬が患者や医師から強く求められていた。
 しかし、大手製薬会社はどこも二の足を踏んでいた。
 開発が難しいことに加えて、上市しても大きな売上が見込めないことが大きな理由だった。
 それよりも、全世界で患者数が膨大にいる成人病治療薬の開発に投資した方が高いリターンを得る確率が高いのだ。
 リスクを犯す経営者は誰もいなかった。

 もちろんそれは経営効率という点において間違いではなく、株主からの重圧に(さら)されている上場企業の経営者がリスクを冒せないというのはある意味仕方のないことではあった。
 しかし、リスクを(いと)わない経営者がいるのも事実だった。
 ベンチャー企業の若き社長たちだ。
 大学の研究室からスピンアウトしたバイオベンチャーは、大手製薬会社がやらないこと、二の足を踏んでいることに挑戦していた。
 それが癌と難治性疾患の治療薬だった。
 最上が卒業したアメリカの大学院の研究室からも卒業生たちが起業をし始め、その彼らとの密な情報交換により、アメリカのバイオベンチャーに関する最新情報を掴んでいた。

 負けてはいられない!

 最上のハートは自分でも手がつけられないほど熱く燃えていた。