その年のトリを飾るに相応しい樺島町(かばしままち)の太鼓山がやって来た。
 36人の担ぎ手が1トンはあるかと思われる太鼓山を担いでいた。
 担ぎ棒の上には4人の少年が乗り、その手には数色に染められた旗が握られていた。

「ホーライエ」と歌いながら太鼓山が左右に動かされると、4人の少年が背をのけ反らせながら大きく旗を振り始めた。
 立っているだけでも大変なのに、ぶれることもなく旗を振り続けた。
 すると「ま~わ~せ~」という掛け声とともに太鼓山が回転を始めた。
 同時に、太鼓山に乗った4人の子供が振りを付けながら太鼓を打ち鳴らし始めた。
 担ぎ手と子供たちの一体となった動きは一糸も乱れず、会場からは惜しみなく拍手が送られた。

 太鼓山が止まると、ハイライトがやって来た。
「コッコデショ!」という掛け声と共に担ぎ手が一斉に太鼓山を宙に放り投げたのだ。
 なんと1メートル以上高く宙に浮かんでいる。
 それも、子供が太鼓山に乗ったままの状態で。

 太鼓山が落ちてきた。
 担ぎ手がしっかり受け止めると、大きな歓声と拍手が諏訪神社を揺らした。
 それをもう一度繰り返して勇壮な舞は終わりを告げた。
 しかしそうではなかった。
 桟敷席から大きな声が上がったのだ。

「もってこ~い、もってこい」

 呼び込むように前に伸ばした掌を自分の方へ持ってくる動きを、桟敷に座るすべての人が何回も繰り返した。
 須尚も負けじと美麗と共に大きな声と手振りで太鼓山を呼び込んだ。

「もってこ~い、もってこい」

 すると彼らが戻ってきた。
 太鼓山を担いで戻ってきた。
 一気に大歓声が沸き起こって興奮の坩堝(るつぼ)と化し、会場の誰もが顔を紅潮させていた。
 それは担ぎ手も一緒のようで、全身に力が漲り、両腕の筋肉が躍動しているように見えた。

 次の瞬間、全員が注目する中、担ぎ手が一斉に法被(はっぴ)を投げ上げ、勇壮な声を張り上げた。

「コッコデショ!」

 また、太鼓山が宙に放り投げられた。
 しかしさっきよりもっと高く、もっと長かった。
 ウヮ~という歓声が渦巻く中、72本の手が伸びた先に太鼓山が落ちてきた。

 担ぎ手がしっかりと受け止めた瞬間、美麗の手をきつく握った。
 絶対に離さないと心に誓って。