入学した当時はまだ学生運動の残り火がきな臭く燃え続けていた。
 校門前だけでなく、学内にも立て看板が並べられていた。
 それ(ふう)の格好をした学生をよく見かけたが、まったく興味がなかったので他人事のように思っていた。
 しかし、無関係のままではいられなかった。
 6月に入ってすぐ学校が封鎖されたのだ。
 『無期限スト決行中』と大書きされた立て看板によって正門が塞がれていた。
 ほんの一部の学生によって大学が占領されてしまったのだ。
 そのため、学生運動とは無関係の大多数の学生は中に入ることができなくなった。
 せっかく入学できたのに、ほんの僅かな期間通っただけで大学に行けなくなってしまったのだ。
 そのため、講義はすべて中止になった。
 学費を返せ! と叫びたくなったが、それをぶつける相手がいなかった。
 なす術もなく自宅で無為な時間を過ごした。

 しかし、ブラブラ遊んでいても仕方がないので、家の近所のスーパーマーケットでアルバイトをしながら再開を待つことにした。
 けれども夏休み前に封鎖が解かれることはなく、前期試験はレポートの提出だけで終わった。
 自分が大学生なのかなんなのかわからなくなった。
 学校に行けずに毎日バイトばかりしているのだ。
 親も心配を口にしたが、こればっかりはどうすることもできなかった。

 夏休みが終わっても封鎖は続いていた。
 アルバイト料でかなりの数のレコードを買うことができたから、それはそれでよかったが、本棚に仕舞い込んだ教科書を見ていると、時々虚しくなった。
 特に勉強が好きなわけではなかったが、とはいっても講義を受けることができない学生生活を良しとするわけにはいかなかった。
 こんな状態が後期も続くのかと思うとため息が出た。