「えっ、ここで、ですか?」

「そう、早く」

 音なしでエアギターをやれという。
 一瞬ためらったが、ディープパープルのリッチー・ブラックモアの顔を思い浮かべると、何故かできそうな気がした。
 自分はリッチー・ブラックモアだ、と無理矢理思い込ませてギターを持つ格好をした。

 目を瞑って、『ハイウェイスター』の間奏のギターフレーズに忠実に左手の指を動かした。
 右手は親指と人差し指でピックを挟んだような形にして、高速で上下に動かした。
 ハイライトの速弾きフレーズに差し掛かると、リッチーの化身になったような錯覚に囚われ、陶酔の世界へと入っていった。
 そのまま一気にエンディングに流れ込んで演奏を終えた。
 
 目を開けた途端、
「やるじゃん!」
 という声が聞こえた。
 スキンヘッドだった。
 目を丸くしていた。

「へ~」

 茶髪長髪が信じられないというような目で見ていた。
 黒髪長髪はニコニコして拍手をする真似をした。

「名前は?」

「須尚です。須尚正。親友からはスナッチと呼ばれています」

「スナッチね、いいじゃん。決まりだね」

 スキンヘッドが長髪2人に目配せすると、彼らは軽く頷いた。

「今日からメンバーね」

 3人が手を上げて近づいてきた。
 ハイタッチの音が狭い部屋に響いた。