須尚正 

 また同じ路線……、

 轟から依頼を受けた4曲目の曲調を聞いて唖然とした。
 いくら大ヒットしているとはいえ、この路線を続けたらビフォー&アフターらしさが無くなってしまう。
 それに、元の路線に戻さないとバンドが危ない。
 テレビに映るタッキーとベスの生気のない顔が気になって仕方がなかった。

「哀愁のあるハードなフォークロックに戻すべきです」

 強い口調で訴えたが、受話器の向こうで轟は無言だった。

「『涙のベル』と同じ路線を続ければバンドは崩壊しますよ。それでもいいんですか」

 精一杯、危機感を伝えた。
 しかし轟は済まなそうな声で「もう決まったことなの。私にできることは何もないの。ごめんなさい」と謝った。