何も思い浮かばないまま1週間が過ぎた。
 やる気がまったくでないので、夕食後にポテチをつまみながらボーっとテレビを見ていた。
 お笑い芸人がバカなことをする番組だったが、それが終わると、若い男女が出てくるドラマが始まった。
 よく知らない女優と男優だった。
 女優は好みのタイプではなかったが、その演技に惹き込まれた。
 2人の男性の間で悩む女性の心情を切々と訴えるセリフや表情が真に迫っていた。
 いつの間にかそのドラマにはまり込んでいた。

 その女優扮する主人公には結婚を約束した恋人がいた。
 しかし、あろうことか、彼女は恋人の親友を好きになってしまった。
 その想いをじっと心の中にとどめていたが、抑えきれなくなった彼女はその男性に想いを打ち明けた。
 画面には、受話器を握った彼女が許されることのない苦しい思いを吐露しているシーンが映し出されていた。

 映像が変わって、恋人の親友の顔がアップになった。
 彼は受話器を強く握りしめながら、彼女よりももっと辛そうな表情を浮かべていた。
 何故こんな電話をしてきたの、というような困惑した顔だった。

 エンディングになった。
 再び彼女が受話器を取ってダイヤルを回した。
 鳴ったのは恋人のではなくその親友の電話だった。
 ベルが鳴り響く中、彼は受話器に手を置いたが、持ち上げることなく悲しそうに受話器を見つめていた。
 そしてその姿がいつまでも映し出されていた。

 テレビを消して、ギターを手にした。
 女優と男優の表情を思い浮かべながらメロディーを探した。
 1時間余りで曲ができた。
 それに乗せる歌詞を考えると、『テレフォン リーン』という言葉が思い浮かんだ。
 一気に歌詞を書き上げた。
 その後は曲と詩に微修正を加えながら仕上げていった。
 日付が変わった頃、新曲が出来上がった。