須尚正 

 若い女性の心に響く切ないバラード……、

 轟からの依頼に首を捻った。
 実は、既に3曲目を用意していた。
 よりロック色の強い曲を。
 しかし、それとはまったく違う依頼が来たのだ。
 本当に方向転換するのか彼らに確認しようと思ったが、会社とメンバーの話し合いで決まったことだと言われたので、連絡するのを思い止まった。

 しかし、若い女性の心に響く切ないバラードと言われてもどんな曲を作ればいいのか、頭の中にはなんのイメージもなかった。
 それに、女心自体をよくわかっていなかった。
 最愛の女性である美麗の心の内でさえ本当に理解しているかどうか自信がなかった。
 だから自分よりは女心がわかっていそうなキーボーに相談しようかと思ったが、それではキーボー風バラードにしかならないと思い至って相談するのを止めた。
 キーボー風バラードが必要なら企画部はキーボーに頼んでいるはずだ。
 そうではない曲を求めているから自分に依頼が来たのだ。
 それに応えなければならない。
 あくまでもスナッチが作るバラードを必要とされているのだ。
 しかし、
 どんなに思いを巡らしても、
 どれだけギターをつま弾いても、
 これだというイメージは湧いてこなかった。