「なんとかしていただけませんか」

 河合の逆鱗(げきりん)に触れた翌日、必死になって営業部長に頼み込んだ。
 しかし、返事はつれなかった。

「前任者が協賛を約束したという証拠は残っていないし、それに、一昨年のことに今年の予算を使うわけにはいかない」

「そこをなんとかお願いします。このままだと長崎では我が社の曲は永遠に流れないことになります」

 実際、河合のラジオ局だけでなく、NHKからも自社の曲が流れることはなかった。
 地元の名士である河合の影響力はそれほどに大きいものだった。

「何度言ってきてもダメだ。金はビタ一文出せない」

 ガチャンと電話を切られた。

 バカヤロー! 

 プープーと鳴っている受話器に向かって思い切り怒鳴ったが、虚しいだけだった。
 それだけでなく、修復不可能という言葉が頭の中からはみ出しそうになっていた。
 しかし、諦めるわけにはいかない。
『ロンリー・ローラ』の成否がかかっているのだ。
 それに、美麗とのこともある。
 なんとしてでもこれを解決しなければならない。
 なにか良い手はないかと必死になって考え続けた。
 
 名案は浮かばなかったが、苦し紛れに2つのことを捻りだした。
 河合に会ってもう一度謝ることと、美麗に取りなしてくれるよう頼むことだった。
 しかしよくよく考えてみればどちらも藪蛇(やぶへび)になる可能性が高かった。
 直ぐにこの考えを捨てた。
 そのあとはバカな考えさえも浮かばなくなり、
 八方塞がりの中で七転八倒するばかりだった。