「申し訳ございません」

 とっさに土下座した。

「僕、いや、わたしが謝って済むことではありませんが、大変なご迷惑をおかけいたしました。本当に申し訳ございません」

 額を床に擦りつけた。
 すると頭の上に何か気配を感じた。
 河合が足で踏みつけようとしているのかもしれないと思うと、体が固まった。
 しかしそれ以上の動きはなかった。
 なんとか思い止まったようだった。

「帰ってくれ。二度とうちに来るな! 娘にまとわりつくな!」

 突き刺すような厳しい声だった。
 でもそれだけでは終わらなかった。
 帰り際に美麗に声をかけることさえも許されず、裏口から追い出されてしまった。
 坂道を下りて路面電車の駅に着いたが、乗る気も起らず、とぼとぼと歩き続けた。

 なんて馬鹿なことをしてくれたんだ!

 前任者への怒りがこみ上げてきた。
 と同時に、修復不可能という言葉が頭の中でこだました。

 どうしようもない……、

 心だけでなく体がどんどん重くなってきた。
 歩くのが辛くなって道路脇のベンチに座り込んだ。

 修復不可能!

 その言葉が頭の中で一段と大きく鳴り響いた。