卑屈な気持ちで庭の隅に立っていると、彼女がシャンパンを持ってきてくれた。
 バラ色の液体から微細な泡が立ち上っていた。
 グラスを近づけると、爽やかな香りが鼻をくすぐった。
 一口飲むと、上品な酸味が口の中に広がった。
 異次元のおいしさだった。

「楽しんでいってね」

 笑顔に引き込まれた。
 しかしずっと見つめ続けるわけにもいかないので視線を服に移すと、華やかなピンクが白い肌に映えて、どこかの王女様のように見えた。
 特注のドレスだろうか? 
 とても素敵だと思ったが、自分とのアンバランスが際立っていることに気づいて途端に居心地が悪くなった。
 皇族の館に来た平民のように気持ちが縮こまった。

「どうかしたの?」

 心配そうな声だったので頭を振ると、後ろから声が聞こえた。

「どなたかな?」

 落ち着いた男性の声だった。

「あっ、パパ」

 えっ、パパ? 

 思わず振り返ると、目が合った。

 あっ! 

 驚いて一歩後ずさりした。
 父親も驚いた顔をしていた。
 しかし、それは長くは続かなかった。
 「君は」と言ったあと、顔を指差すようにして、
 「なんでここにいるんだ!」と険しい表情になった。

「お知り合い?」


「いや……」
 父親は無理矢理柔和な表情を作ろうとしたが、「どうしてこいつがここに」と言った瞬間、また険しい表情に戻った。

「わたしのお友達、須尚正さん」

 そして、こっちに向き直って、「パパの河合(かわい)音彦(おとひこ)。ラジオ局で」と紹介した途端、あっ、という表情になった。

「仕事で会ったことがあるの?」

 顔を交互に見つめた。
 2人は同時に頷いた。