降りたのは大浦天主堂駅だった。
 昨年の秋、グラバー園へ行く時に降りた駅。

 坂を上って教会を通り過ぎたところに彼女の家はあった。
 大きい家だった。
 というより凄い家だった。
 白亜の豪邸。

 金持ちの娘? 

 思わず顔をしげしげと見てしまった。

「今夜は送ってくれてありがとう」

 その声と笑みが余りに可愛くて思わず抱き締めた。
 そして勇気を出して顔を近づけ、心臓が早鐘を打つ中、唇を合わせた。
 初めてのキスだった。
 柔らかな唇の感触に我を忘れそうになった。
 それでも家の前だから長くそうしているわけにもいかず、体を離して彼女を見つめた。
 すると照れたようにうつむいたので、それが余りに可愛くてもう一度キスをしたくなった。
 しかし彼女を引き寄せた時、車が坂を上ってくる音が聞こえたので離れざるを得なくなった。

 車が通りすぎると、それが合図になったかのように、「おやすみなさい」と言って彼女が背を向けた。
 そして門を開けて中に入ると、振り返って胸の前で小さく手を振り、名残惜しそうに門を閉めた。
 姿が見えなくなった。
 でも彼女の残像を追い続けた。