彼女のアルバイトが終わるのを待ってデートをするのが週末の恒例になった。
 ただ夕食を食べて駅で別れるだけのデートだったが、それは何物にも代えがたい宝物のような時間だった。
 彼女が話す学生生活や友達の話を夢見心地で聞いた。
 
 その日もお洒落なカフェで食事とお酒を楽しんでいたのだが、店内に流れるイージーリスニングミュージックを聴いているうちに、頭の中は『ロンリー・ローラ』の販促、特になんの糸口も掴めないラジオ局対策のことでいっぱいになってしまった。

「どうしたの? 浮かない顔をして」

 彼女が顔を覗き込むようにした。

「ごめん、ごめん。ちょっと仕事のことを考えてしまって……」

「何か大変なことでもあるの?」

「いや、なんでもない。それより、遅くなったから送って行くよ」

 今まではいつも路面電車の駅で別れていた。
 2人の行き先は正反対だったからだ。
 彼女は長崎駅から南の方角の南山手町に住んでいるのに対し、自分は長崎駅から北側の浦上(うらかみ)に住んでいたからだ。
 でも、今夜はいつもより遅くなったので、彼女を一人で帰すことは躊躇われた。
 治安のよい長崎とはいっても夜道の一人歩きは心配だったからだ。

 乗り込んで手を繋いだまま外を見ていると、柔らかな手が吸い付くようで、幸せ満開になった。
 これがいつまでも続いてほしかった。
 手を離すなんて考えたくもなかった。
 しかし無情にも降りる駅が近づき、彼女の指が降車ボタンを押した。