「……のさん?磐乃(ばんの)さん!」

「は、っはい」

「次の注文、入ったよ」

「あ、すみません…」



お母さんとした会話、小さい時の微かな記憶。


小さかった私を腕の中で優しく抱きしめて目を閉じ、お母さんが言いかけた言葉。

その後の記憶を断ち切るようにしてバイト先の同じキッチンスタッフ人の注意が入る。



「ごめん、誰か一瞬だけレジ入れない?今ホール皆手が離せなくて」



ホールとキッチンを仕切る扉からひょこっと顔を出して両手を合わせて来たホール担当の女の子。



「いや、こっちも手が離せないんだけど??」

「お願い!レジだけだし磐乃さん一瞬だけだからお願い!」



唐突にこっちに振ってくる女の子。

どうしてこの状況で私?

人と関わるの苦手だし、ましてや見ず知らずの他人と話すなんてもってのほか。



「磐乃さん、もうちゃっちゃと終わらせて戻ってきて」

「え……」

「助かるー!じゃあお願いします!」

「あ、いや、あの…」




はぁ……。


まぁこういう時の為にキッチンスタッフでも皆レジは一通り習うけれど、人とのコミュニケーションが成り立たない私にそういう仕事が来ることは無かった。


働かせて貰ってる以上、お金の為の仕事だと思えば頑張るしかない。



「お、お待たせ…致しました」

「ちょっと、お会計するだけなのにどれだけ待たせるわけ?」

「も、申し訳…ございま…せん…」



可愛らしい女の子2人組がレジの前で待っていた。

1人の背の高いモデルさんのようにスタイルの良いお姉さんが、ピリついてる女の子をなだめていた。