「サンドイッチ食べながらって、風情ないな」

 声をかけられた翔が振り返った。

 浴衣を着た華ちゃんが笑顔で立っていた。

 翔は目をこすった。華ちゃんは笑って言った。

「幽霊やで」

「それでも嬉しい」

「ちょっとおどろいてーや。……まっええか、一緒に花火見よ」

「わかった」

 二人は屋上で並んで花火を見た。

 時々顔を見合わせて笑った。

 この不思議な状況に違和感を感じなかった。

 そして、三十分くらいで花火は終わった。

「早かったね」と翔が言った。

「そんなことない、十分楽しめた。翔さんが花火企画したんやね。ありがとう」

「華ちゃん、何も気付いてあげなくてごめん」

「ほんまやな、何も気付いてへんかったな」

「クマのぬいぐるみ、ほら、今は僕が持ってる。僕が渡したものだね」

 翔はクマのぬいぐるみをキーホルダーにしていた。

「やっと気付いた。それ棺の中に入れてもうてないねん。持って行きたかってん」

「そう。大事にしてくれてたんだね」

「それ、花火終わったし、海に流して、いつまでもそんなん持ってたら忘れられへんで」

「君の事、忘れないよ」

「だめだめ。いつかは忘れて。今すぐだと悲しいけど、忘れてくれないと成仏できない」

「わかった」

「一緒に花火見れて良かったわ」

「一緒に見れると思わなかった」

「うん。……翔、大好きやで」

「華ちゃん、僕も君が大好きだよ」

 翔が華の手を取ろうとしたが、それはできなかった。手は空を切っただけだった。

「私は死んでんねん。触れへん。私は死んだけど、私を作っていた分子は世界に広がったんやで。また何かの一部になるんや。それが人間やったら、意識の一部になるかもしれへん。それは生まれ変わりと言えると思うねん。また、いつかめぐり逢ったら仲良くしてや」

「わかった」

 二人とも泣いていた。

 華の全身が輝き出した。

「もう、お別れみたい。翔、大好き、大好きやで」

「華、華、大好きだよ」

 華は光の粒子になって、花火のように広がって、消えた。

 翔は膝から崩れて座り込んだ。

翔は星空を見上げ涙を流した。

「華、花火のように儚い人生だった。
華、花火のように消えていった。
華、また花火一緒に見たいよ。きっといつか、生まれ変わって、一緒に花火見よう」

 グアムの夜空は星が降りそうなくらい無数の星が(またた)いていた。