「髪型よし、服装よし、忘れ物なし!いってきまーす!」

今日はいつもより早起きして、髪型をセットした。
慣れないメイクだって何とか努力して、深瀬先生に釣り合うように…!

服装もしっかりトレンドを抑える。甘いガーリーな服装に身を包めば、何となく最近の女の子という感じがする。

休日の駅前には、沢山の人が居る。
デートをしているカップルは数入れど、これから私が学校の先生とデートするなんて神様も知らないだろう。

「あぁ居た居た!坂野さん、こっちだよ」

深瀬先生は手を上げて、人の波の中にいる。

「あ、お待たせしました!…深瀬先生」

少々照れくさくなり、視線を逸らす。
先生なんて授業で何人も居ることが稀なので、普段から私はどの先生も「先生」としか呼ばない。
だから、深瀬先生の名前をしっかり呼んだのは初めてだ。

「なんかその…先生って呼ばれると悪いコトしてるみたい」

「深瀬先生から告白してきたんじゃないですか」

深瀬先生は後ろ髪を触りながら、駅の裏口へと向かう。

「ん〜、まぁそっか。慣れてきたらで良いんだけどさ…」

「深瀬くん、って呼んでくれない?」と深瀬先生は耳打ちする。
そのあまりにも耽美な囁き声に私は顔が赤くなる。

「そ、そんな…仮にも先生ですし、せめて卒業するまで深瀬先生呼びで、」

「ふーん…つまり、坂野さんは卒業してからも先生の彼女で居てくれるってこと?」

不意に返された問いに、脳が必死に答えを探している。

「あ、や、えと…」

「嬉しいこと言ってくれるなぁ」とふにゃっとした笑みを浮かべた深瀬先生は、私の手を握って引っ張っていく。
さりげないその動きに一瞬思考停止した私は、思わず足を止めてしまった。

「深瀬先生、手…」

「まぁ、先生は大人なので〜、ある程度は慣れてるかな」

何気ない顔でそう言う深瀬先生の瞳は、もう戻らない何かを見つめていた。
脳裏に、「過去に辛い思いをしてるから、あまり恋愛に興味はないかな」という深瀬先生の言葉が過る。
それについて言及するのは若干気が引けて、私は深瀬先生と繋がれた手元を見る。
深瀬先生の手はまるで人形みたいに白い。薄く血管の浮き出た肌は、きっとどんな彫刻家が彫っても再現なんて出来なさそうだ。

「そういう坂野さんは結構恋愛は初心(ウブ)な感じ?さっきからめっちゃ顔赤いよ」

「恋愛…は…したことありますけど、手とかは…繋いだこと無いです…」

「ふぅん…」

深瀬先生は一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐにまた「行こうか」と手を引く。

「電車は…乗らないんですか?」

「今日は車で来てるからね。立体駐車場は裏口近くだから」

「そ、それってつまり…」

「まぁ、行く場所はお楽しみなんだけどね。本当は坂野さんの家まで迎えに行ってあげたいんだけど、バレたら色々厄介だからね〜」