「昨日ね、下校の時、車の窓から海堂学園の男性が手を振ってきたの」

「やだ、こわい。女の子を見るとすぐ近づこうとするって、噂通りね」

ワンピースタイプの白いセーラー服に身を包んで、移動教室のために校舎二階の廊下を歩く。

お友達の百合さんと陽子さんの会話を聞きながら、わたしは教科書とノートではさんで隠した文庫本を、胸元でギュッと抱きしめた。

「でも、ちょっとかっこいい方だったのよ。ドキドキしてしまって」

「ダメよ、そんなお考えでいては。先生方もおっしゃっているでしょう? 海堂学園の生徒は、下心しか持っていないのだって」

廊下の窓から見えるのは、塀の向こう側の校舎。

聖良(せいら)さんは、どう思われる?」

百合さんに名前を呼ばれて、ハッとする。

「あ……、ごめんなさい。少し、考えごとをしていまして」

「もう。相変わらずなんだから。気を引き締めなくてはダメよ? 聖良さんは純粋なんだから、すぐだまされそうで心配だわ」

陽子さんのそんな忠告にニコッと笑って、わたしはまた窓の外を見た。

卯月 聖良(うづき せいら)16歳。
わたしには、誰にも言えないひみつがあります。