「えへへ……」

思わず、笑いがこぼれてしまう。

「すごいです。青春みたいです。学校では、まだ皆さん授業をなさっているのに、わたしたちだけはここにいますね」

これは、わるいこと。……だけど。

「こんなことが見つかれば、怒られてしまいます。どうなるのか、想像しただけで怖いです。なのに、不思議ですね。今は、嬉しい気持ちが勝ってしまいます」

手を当てて、笑っている口元を隠す。
ほとんど初対面に近い男性と、学校を抜け出しているのに、罪悪感があまりない。

でも、きっと、こんなことは今日だけだから。
明日からは、元通りに戻ってしまう。

不意に、握られた手にギュッと力が込められた気がして、顔を上げる。
壱さんが、わたしの顔をじっと見つめていた。