壱さんはニコッと笑って、そのままわたしの手を取ったまま歩き出した。
これは一体、何ごとでしょうか。

「す、すごいです。本当に、ドキドキします」

塀から引き上げてくれた時にも手は握ったはずだけれど、あの時は違うドキドキに支配されていたから、手に集中出来なかった。

「壱さんの手が大きくて、わたしの手が全く見えません。指が長いんですね。ゴツゴツしていて、かたいです」

脈を打つのが、どちらのものなのか分からない。

「こら」

「?」

空いている方の手で、壱さんがわたしの頭をコツンと叩く。
すごく弱い力で、少しも痛くない。

「思ってること、全部口に出すなよ。なんか恥ずかしいだろ」

壱さんが唇を“へ”の字に結んで、頬を染めている。

……わたしにもその色、移ってしまいました。