壱さんが向かうのは、隣の海堂学園に繋がる塀。
壱さんはひとりで軽々と塀を上って、そこから手を伸ばした。

「今なら、向こうも誰もいないから。ほら」

「えっ……!?」

それはつまり、わたしもそちら側に……と、いうこと?

「あ、あの、でも……」

いきなりの展開に、わたしは誰もいないのを分かっていながら周りをキョロキョロしてしまう。

『海堂学園の生徒に関わってはいけない』。
思い出すのは、常日頃言い聞かせられている言葉。
授業の無断欠席は、いけないこと。
先生にも、お友達にも心配をかけてしまう。
お家に、連絡もいってしまうかもしれない。
……でも。

そちら側に行ったら、どうなるの?

「嫌なら、俺はこのままひとりで戻るから」

「!!」

考えるよりも、体が動いた。
だってもう、きっと、変わるなら今しかない。

わたしは、壱さんの手を取った。