「なんで人前で読めないの? それ、実はエロ本だったりする?」

「ち、ちがいます!」

顔の前でブンブン手を振って否定をするけど、そういう要素もなくはないから、少し気まずい。

「普通の女の子が、男の子にドキドキさせられたり、色っぽい展開があったり、そういうお話は……、周りの方に好ましく思われないんです」

初等部の頃にはすでに、「挿絵がある本は、文章を読んだとは認めません。学校に持ち込まないように」と、言われていたし。

「でも、わたしは好きなので、ここで隠れて読んでいるんです。授業を休んで男の子と抜け出したり、放課後に制服のままデートをしたり。好きな人以外の男の子に抱きしめられたり、ドキドキするお話ばかりで。わたしとは違う世界で」

話してしまったことに、少し後悔する気持ちはあるけれど、壱さんがこれからもこの裏庭に来るのなら、遅かれ早かれバレていたと思う。

「雪平学院の生徒の多くは、親の決めた結婚相手がいて、その前に誰かと恋をすることもしません。多分、わたしもそうなります。だから、こんな物語がうらやましく感じます」

そういえば、壱さんは今日、どうしてここに来たんだろう。
昨日は、先生に追いかけられていたからだと言っていたけど。

「ふーん」

と、壱さんは少し考えるように口をへの字にして。

「うらやましいなら、聖良も同じことしてみる?」

わたしに、冗談みたいな提案をした。