「聖良さん、先ほどはどうかされたの? 先生も、心配していらっしゃったわよ」

授業が全て終わった放課後、帰りの支度をしていると、心配そうな表情の陽子さんが、わたしに声をかけてきた。
きっと、無断欠席してしまった授業のこと。

「ご心配ありがとうございます。少し気分が悪くなってしまって、医務室のベッドをお借りしていたんです」

「あら、ご無理はなさらないでね」

「はい」

嘘をつくことに慣れていないから、ドキドキする。
壱さんとのことは、誰にもひみつ。

「わたしは迎えの車が来ましたので、これで失礼するわね。ごきげんよう」

「はい、ごきげんよう。お気をつけてお帰りになってくださいね」

教室を後にする陽子さんに、軽く会釈(えしゃく)をする。

雪平学院では、車での送迎が主で、徒歩通学や電車通学、バス通学などの生徒は存在しない。
だから、物語の中の制服デートなんて、現実では叶わない。

窓の外を見ると、歩いているのは海堂学園の生徒ばかり。

わたしも、一度でいいから……。