その中にほのかに混ざる甘い匂いは、椎名の香水の香り。
私が自分のせきに到着するまでにメマイを感じてフラついてしまった。

近くの机に手を付いて体を支え、呼吸を整えてまた歩き出す。
椎名がつけている香水が合わないのが原因なのだろうとわかっているが、それを本人に伝えることはできない。

椎名はきっと傷ついた顔をするだろうし、周りから非難を受けるかもしれないから。
フラフラした足取りで自分の席にたどりついて座ると、「あぁ、喉が乾いたなぁ」と、椎名の呟く声が聞こえてきた。

それは会話のひとつではなく、なんとなくポロッと出た言葉。
誰にでもある独り言で、誰も気に止めない一言。

「私なにか飲み物買ってくるよ」
椎名の独り言に反応したのは春美だった。