それは歩き始めたばかりの赤ん坊みたいで、なんだか可愛らしく感じられた。
「あははっ。みんなもやって。鬼さんこちら手のなる方へ」

椎名に言われて私も手を叩いてしのぶを呼んだ。
あちこちから名前を呼ばれ、手を叩かれてしのぶの体はふらふらと動き回る。

未だにうずくまったままの春美も、手だけは叩いていた。
一向に外へ出ることはできない。

永遠に、水で顔を洗うことはできない。
「痛い……痛いよ……」
と繰り返しながらもしのぶは教室内を歩き回ることをやめられなかった。

やがてしのぶの動きが鈍くなり、そしてついにその場に崩れ落ちてしまった。
カブトムシの幼虫みたいに丸くなって床に寝そべる。

「しのぶちゃん、どうしたの?」
椎名が声をかけても返事をしない。

直樹が近づいていってしのぶの手首で脈を確認している。
それから顔をあげると「死んでる」と、ひとこと言ったのだった。