ふたりは仲が良かったはずだけれど、この状況ではそれも関係なかった。
「いやああ!」

薬品が目に入ったのだろう、しのぶが悲鳴を上げてその場にしゃがみこんだ。
両手で必死に目の周りをこすっているけれど、そんなんで取れるとは思えなかった。

「痛い痛い痛い痛い!」
しのぶが叫びながらふらふらと立ち上がって歩き出した。

「水、水」
手探りで出口へと向かおうとするしのぶの前に立ちはだかったのは椎名だった。
椎名はおもしろいオモチャでも見つけたようにしのぶへ向けて手を叩いた。

「鬼さんこちら手のなる方へ」

クスクスと笑う椎名の声にしのぶが反応した。
目が見えなくても椎名の声は覚えているんだろう。

パチパチと手を鳴らされた方へと方向転換して歩きだす。