原岡高校２年A組の教室には少しだけ開けた窓から秋の心地よい風が入り込んできている。
「奈美聞いてぇ？　今日、転校生が来るってさぁ」

間延びして今にもあくびが出そうな声でそう聞いてきたのは、１年生の頃から同じクラスにいる奥川千佳だった。
千佳は胸まである長い髪の毛を高い場所でふたつにくくっている。

千佳が歩くたびにそれが左右に揺れてまるで馬のしっぽみたいだ。
「そうなんだ？」

私は読んでいた雑誌から顔を上げて聞き返した。
教室内はおだやかな雰囲気で、私も今にも眠ってしまいそうだ。

「なんでも、すっごい美人なんだってぇ」
身を乗り出して小声で伝えてくる千佳に「はいはい」と相づちを打つ。

「そうやって期待させておいて突き落とすやつでしょ。こんな季節にこんな美人な転校生が！　なんて、漫画の世界じゃないんだからさ」

そう言ってあしらっていると、話が聞こえたのかクラスメートの大川しのぶと住山英明が近づいてきた。