「だったら何が問題なのですか? もしやリーチェ嬢あなたは、私の事がお嫌いなのでしょうか?」
「まさかっ!」

 思わずテーブルに手をつき、立ち上がってしまった。
 本能とでもいうのだろうか、全身全霊でその言葉を否定せねば……っ! と思ってしまった自分が憎い。
 これでは今さら否定ができないじゃないか。

 いや、否定するつもりはないけど、もう少し嫌いって言葉をマイルドにできた気がするんだよね。
 ひとまず私はストンと席に座りなおしした。
 ちょうど座ったのを確認した従者が、私の目の前に食後のデザートを並べた。ムースだろうか。おいしそうだけど、今はそれを楽しんでる余裕はない。

 何せこの男は、この後さらに爆弾を投下してきたからだ。

「であれば、私達がつき合うのも問題ありませんんね。さっそくトリニダード男爵にも報告の手紙を書き添えましょう」
「手紙⁉ マルコフ……いえ、父に報告するのですか?」

 なんでそうなるの⁉

「あの、レオン様が申し出て下さった内容から察するに、私達がつき合うというのはパーティ用の“フリ”だと思っていたのですか……?」
「ええ、フリです。ですがパーティ用にしてしまっては、逆上したあの男が何をしでかすか分かりません。あなたのお父上がご存じ無いと知れば、先手を打ち、リーチェとの婚約を結ぼうとする可能性があるとは思いませんか?」
「それは……」

 否定できない。
 あの手紙を読む限りでは、キールは本気でマルコフに私との婚約の話をチラつかせるつもりだったし。