緩んでいた頬を、キュッと引き上げたところで、レオンはデザートに口をつけるようすはなく、ワイングラスをくるくると回しながら、私を見つめた。

「こっ、侯爵様?」

 いつになく優しい眼差しに見えるのは気のせい?
 まさかレオンともあろう人間が……酔ったとか?
 レオンはお酒にも強いはずだけどな……?
 そんな風に思っていた矢先、レオンはほほ笑むように口元を緩ませてこう言った。

「ところでリーチェ、いつまで侯爵様と呼ぶつもりだ?」

 ……はい?

「ですが、侯爵様は侯爵様……ですよね?」
「名前で呼び合う話をしたかと思うのだが?」

 ああ、そうでした。
 バービリオン侯爵にくらべたらレオン侯爵と呼ぶのは字面的にも発音的にも楽だったんだけど、万年の私のズボラさが出てしまい、さらに短く爵位のみで呼んでた。

「レオン侯爵様。これでよろしいでしょうか?」
「レオンでいい。俺もリーチェと呼んでいるのだから、それが公平ではないか?」
「では、レオン様?」
「様も省略していい」

 いや、それはいるでしょ。むしろつけさせて。
 年下の男爵令嬢が年上の侯爵相手に呼び捨てって、どーなの?