そうなると私が夜会に参加する一番の目的は、自分でビジネスを始めて、貴族たちにビジネスアタックをしていくこと。
 例え見下されたとしても、仕事のためだと思えば人の陰口や悪口はへっちゃらだ。
 前世のSNSでボロクソ叩かれて鍛え抜かれた、私のメンタル力見せつける時じゃん!

 ――そう思って、私はキールの参加するであろうパーティにはかたっぱしから避け続けた、数か月。
 この瞬間に、私の努力はあぶくの様に消えていった。


   *


「初めまして、トリニダード男爵令嬢」

 肩まで伸びる白銀の髪が光を受けて、煌びやかに輝きを放ち、後頭部で一つに結んだ髪から一房落ちる前髪の隙間から、情熱とか灼熱とかの言葉を彷彿させるような赤い瞳が、怪しく私に向けてきらりと光っている。

 陶器のようななめらかで白い肌。薔薇のように赤くて薄い唇。
 180センチの身長は、私を上から見下ろすには十分で、彼は私が逃げられないようにと、背後の壁に手をついていた。

 ……なんで?
 なんでキールがここにいるの?

 招待客リストは事前に調べていた。
 キールが今どの令嬢と関係を持っているのかとか、どの夜会に参加するつもりだとか。
 女たらしで有名だけに、その情報は簡単に手に入る。
 令嬢の中にはキールの素行を良く思わない女性もいるが、なにせこの美貌!
 なんだかんだと言って、キールに言い寄られればイチコロだ。