もちろん仕事は別だ。でもレオンは人のプライベートに介入したり、自分のプライバシーに介入させたりもしない。
 私との関係はビジネスだけど、これはビジネスパーソンに対する態度とはまた違って見えるし……まさかとは思うけど、レオンが私に好意を持ってたりする?

 ーーいやいや、ないない。

 いくらマリーゴールドに出会う前とはいえ、あのレオンがモブ令嬢に好意を持つなんて。
 それにこれは、好意というより興味に近い気がする。

 どちらにせよ、余計な興味心は今からポッキリ折っておく方がいい。私の動悸と残り僅かな血液をセーブするために。
 そうじゃないと、今後のビジネスパートナーという関係が危ぶまれてしまう。致死量の出血に伴い死亡という筋書きだけは避けたい。

 レオンから解放されたと同時に、私はレオンが座っていたソファーに座る。話し合いが始まった時とは席の位置が逆転するように。
 どちらが上座で、どちらがレオンの席かなんてこの際どうだっていい。今は距離を離したい。

「今日はもう一つ、侯爵様に折り入って話があったので来たのですが、そろそろその議題に入ってもよろしいでしょうか?」

 私はまだ止まりきっていない鼻血を止めるため、レオンのスカーフで鼻を抑えながら上座に座り、彼にも席につくように促した。
 もしも今、この部屋に従者が入ってくればこう思うだろう。
 この屋敷の主人は一体誰なのか、と――。