「ハッキリとは見ていない。だからセーフだ」
「いやいや、ハッキリくっきりしっかりとご覧になりましたよね?」

 鼻血ブー垂れる直前まで、至近距離から私の顔を直視して、さらにほほ笑みかけてましたけど。
 あれで見逃してたわけないじゃない。そんな嘘、子供でもつかないと思う。

「どうやら俺は、都合の良い事はすぐに忘れるタチなんだ」

 本当に都合の良い話だ。
 私にとってはありがたい申し出なのにそう思えないのは、やはり相手が悪いからだ。
 レオンには鼻血のことを忘れて欲しいのではなく、鼻血を見せたくなかった……。

「とにかく離れて下さい」

 グイグイとレオンの胸を押し返そうとするけど、さすがは騎士、ビクともしない。
 むしろ服の上からとはいえレオンの胸板に触れて、さっきよりドキドキする。危険だ。ドキドキはそのまま鼻血となってドバドバ放出されてしまう。

「鼻血が止まるまで、このままでいた方がいいのではないか? その姿を俺に見られたくはないのだろう?」
「いえ、逆効果です。止まるものも止まらなくなるので離れて下さい」

 すると、レオンは腕の力をスッと解いた。あっけない解放に面食らうほどだ。

「なるほど、”俺に”抱きつかれると余計に鼻血が出ると……?」

 わかりにくい表情をしてるのに、その声にどこか熱がこもったように聞こえた。
 しかも「俺に」って言葉が、どこか強調して聞こえたのは、気のせいだろうか……?