「…………侯爵様、まだその媚薬香水の効果を私で試していらっしゃいますね?」
「ははっ、やはりリーチェは鋭いな」

 ――くそぅ。無駄にドキドキして心臓に負担かけたじゃないか。
 マジで心臓発作が起きたらレオンのせいだ。
 そしてさっきから簡単に笑ってくれちゃって……やっぱりドキドキさせられっぱなしで心臓もたないんだけど。

「俺はコーデリア公爵のように、無理やり女性をどうこうする趣味はないぞ」
「ですが、やってることは大差ないように思えます」

 隙をつき、レオンの手を叩くように切り離した。そのまま彼から顔を背けるが、レオンは腕を組んで足を組み直す。

「そんな言い方をされてしまうと、不愉快に思えるな」

 言いながらレオンは更に笑う。私の顔を覗き込むようにして首を伸ばし、小首を傾げながら。
 その様子がどこか少年のようなイタズラっ子を彷彿させる。
 やはりレオンのキャラとは違うように思える動作なのに、私の胸の奥では小さな小動物が鳴いたようなうめき声が上がった。

 ――あっ、しまった。

 下から覗きこまれるアングルは想定してなかったから、鍛錬をおこったっていた……。
 そう思った瞬間、ツーッと生暖かいものが自分の唇に向かって垂れていくのを感じた。

「あっ……!」

 やばっ! 本当に鼻血が出てしまった!
 慌てて両手で鼻を抑え、席を立つ――が。

「……侯爵、様?」

 レオンも立ち上がり、そのまま私をギュッと抱きしめた――。