「それこそ信用できないな」
「ですが本心です。私は事業をしたくて、趣味だったこの香水作りを始めたのですから」

 ふむ、と首を傾げながらも私の手を離さない。視線も真っすぐ私を見つめている。
 その上わざわざレオンと距離を取ろうとしてるのに、彼はズイズイと距離を縮めてくる。
 さっきまで真ん中に座っていたはずなのに、今や私の背中にはソファーの腕置きが食い込むように当たっている。
 要はこれ以上逃げられない。

「なぜ事業を興そうと思ったのか、聞いてもいいか? あなたの父親であるトリニダード男爵の手腕は聞き入っている。リーチェ嬢がビジネスをしてお金を稼ぐ必要は無いように思うのだが?」
「それは……」

 このままだと良い嫁ぎ先を割当ててもらえる可能性が低いから、そうなった時用の逃走資金を貯めるためなんて、言えない。

「もしくはリーチェ、あなたは誰とも結婚をする気がないのか?」
「えっ?」
「私がトリニダード男爵なら、金銭の心配はないだろう。また、男爵位を買ったように地位を求めているのであれば、次に目指すのは上の位、男爵以上の爵位だろう。であれば一人娘の結婚を推し進めるのが通例な貴族社会の流れというものだ」

 すっ、するどいな。状況判断もばっちりだし、ほぼ正解じゃないか。