「実は、レオン侯爵様が私とパーティ参加を拒否された場合にと思い、切り札として作った香水なんです」
「なるほど。リーチェ嬢は私が断る事を本気で想定していたのだな。そんな話を聞くと、やはり一度くらい断った方が良かった気がしてくるな」
「残念ですがすでに一度了承されたので、取り消しは無効とさせていただきます」
「ははっ、安心してくれ、冗談だ。先程の返事に二言はない」

 声を立てて笑うレオンに、私は思わず目を見開いた。

 ……思ったより簡単に笑うのね。
 私の中でのレオンはもっと、冷淡で冷徹なイメージでキャラ設定したはずなんだけど?
 イケメンの笑顔ほどごちそうはないけど、不意打ちすぎてひっくり返るかと思った。三回転くらいする勢いで転びそうになったじゃない。

「しかしそうなると、私はその取り引きアイテムを受け取れないのだろうか?」
「いいえ、元々お約束しているものでもありますのでどちらにせよお納めください。まだ試作段階ではあるのですが、媚薬効果がある香水です」

 そう言った瞬間、今度はレオンの瞳が大きく見開かれた。切れ長の瞳が空に浮かぶ月のように丸く満ちていく様子に、私はやはり首を傾げそうになる。
 さらにレオンは組んでいた長い足をほどき、食い入るように香水に目を向けている。
 さっきの香水とはうって変わるほどの反応だ。どれだけ媚薬を心待ちにしてるんだか……。