「ところでその呼び名の事だが」

 その呼び名、とは? 突然の切り出しに、私は何の事だか分からず首を傾げた。

「ずっと気になっていたのだが、私の事はファーストネームで呼んではくれないか?」
「…………はい?」

 話の意図も、流れも全く分からなくて、私はただひたすらに目を瞬かせた。
 ファーストネームって事は、レオンって呼んでくれって事だよね? なんで急にそんなこと?

「ビジネスパートナーとはいえ、これから頻繁にやり取りをする間柄だ。いい加減バービリオン侯爵と呼ばれるのは堅苦しいからな」

 ……なるほど。確かにファミリーネームで呼ばれるのは堅苦しいかもね。仲の良い間柄であれば愛称で呼んだりするし、かといってそこまでの関係ではないからファーストネームで呼ぶのが妥当な気がする。

「それもそうですね。それではレオン侯爵様、私の事もリーチェとお呼びください」
「ああ、ではそうしよう」

 レオンはどこか満足そうな表情で、テーブルに置かれていた紅茶をひと口飲んだ。
 そんな姿すら上品で、様になるこの男はなんてイケメンなのだろう。私は改めてまじまじとレオンを見つめる。
 するとレオンは私の視線に気づいたのか、単に目の前に座ってる私に目を合わせただけなのか――とにかく彼の青く澄んだ瞳が私を真っすぐ捉えた。