愛しのリーチェへ

 昨夜の君と出会った俺は、甘美なる君の誘惑から未だに解放されず、どこか夢うつつといった気持ちのままこの手紙を綴っている。
 突然現れた四角四面な男が俺達の間に割って入らなければ、きっと今ごろリーチェと俺の仲が進展していたであろう。そう考えると遺憾千万でならない。
 そこでリーチェには今度我が屋敷で開かれるパーティーに是非参加して欲しいと思い、招待状を同封しておいた。心配することはない、邪魔者は門前払いどころか招待状を持たないのだから来ることもないだろう。
 ゆっくりとこの間の続きを楽しもうじゃないか。

 追伸:
 俺が直々にリーチェの父君マルコフ男爵に進言し、君と会う手はずを整えてもいいのだが、それはまだ性急すぎるだろう?
 とにかく、いい返事を待っている。

 ――キール・ロッジ・コーデリア――



 なっ、なんだこりゃ……! あいつマジでサイコパスじゃない!
 ワナワナと震える私の手で、手紙は再びクシャリと握りつぶされた。
 っていうかこれはなに? ポエムかなにかの一種なの⁉ 妄想だらけの内容で怖いんですけど!
 しかもキールの家でのパーティなんて行きたくないし! 私が断る事を見越した追伸がまた、いやらしいったらありゃしない!
 要は私が断ったら、マルコフに直談判するつもりなんでしょ?
 わざわざその話を持ち出したって事は、私が断れない事も知ってるんだわ。

 トリニダード男爵家が成り上がりで、マルコフが私の婚姻でさらに上流階級へとのし上がりたいって考えてる事も承知なんでしょうね!
 ゲス男め!