そもそも、田舎男爵娘に公爵が恋をするとでも?

 いいや、マルコフは全て分かってた上で言ってるに違いない。
 社交界での私の立ち位置を誰よりも知ってるのはマルコフだ。
 金で買った爵位など、本物の貴族からすれば庶民と同じ。
 卑しいと思う貴族が大半なのだから、好意を持つ輩がいる事の方が稀だと知っているはず。
 だからこそマルコフは社交界にあまり顔を出さないのだ。

 その上キールの女癖の話は有名で、もちろんマルコフ自身も知っている。
 ……が、その上でこんな事を言っているのだから、この男は本当に食えない。
 遊び人だろうと、歳を取った男だろうと、離婚してようと……娘が結婚し、爵位の恩恵にあやかれさえすればそれでいいと考えているのだろう。

 それだけならまだしも……キールだけは絶対にダメだ。何のために、私が苦労をしてあの男を避けようとしてきたのか分からないじゃないか。
 私に死ぬ意志がなかったとしても、運命の糸がどこで帳尻を合わせだすか分かったものじゃない。だからキールだけは絶対にダメ。
 阻止しなくちゃいけない対象だというのに……!

「……なんでも結婚にかこつけようとする思想は、少々危険です。私も重々自分の置かれている状況を理解していますので、どうか落ち着いて下さい」
「ではなぜ、コーデリア公爵家からお前宛てに手紙が届いたのだ? 男爵閣下であるこのワシではなく?」
「それは……昨日、顔を出したパーティで少しコーデリア公爵様ともビジネスの話をしたので、それで興味を持っていらっしゃるのではないでしょうか?」
「ほぅ、ビジネスか……。噂だと、仕事よりも女性に興味をお持ちなお人柄のようではないか?」

 ニヤリとほくそ笑むマルコフ。
 チョビ髭をなでつけてるその様子を見ていると、その髭を引っこ抜いてやりたい気持ちになってくる……!