「パパ、私ならばきっと、もっと他に良い縁談を結ぶことができます。せっかくできたバービリオン侯爵家とのコネクションなのですよ? あの女性嫌いの侯爵様を縁談などという話を仄めかして、気分を害されるのは私としては遺憾です」
「ほう? ではなにか、リーチェにはバービリオン侯爵家以上の縁談を得る確証があるというのだな?」

 ニヤリとほくそ笑むマルコフの様子に私は、必死になって表情を崩さないように努めた。
 ……そんなの、嘘に決まってるじゃない。レオン以上の縁談なんて、かなり絞られるわけだし。全くもって口から出まかせだ。

「確証があるわけでは……ありません」

 考えろ、考えろ。
 誰か一人くらいいるんじゃない? 私でも攻略できそうな、人物が。
 私が作った世界観で、私はいわば神の様な存在じゃない。主要な登場人物も、この先に起きるであろう出来事もマンガを通して知ってるんだから。

「ではそれが誰なのか、言ってみなさい」
「そっ、それは……」

 皇帝陛下とか言っちゃう?
 ……いっ、いやいや。落ち着け。陛下は満70歳のおじいちゃんじゃん。それはいろんな意味でも無理だし。
 だったら陛下の息子である皇子達なら?
 ……うーん、皇子とはさすがに現実味がなさすぎて、マルコフにバレてしまうかも。
 まだ一度も皇室からの夜会には参加していないのだし、今の私には接点がなさすぎる。
 かといってマルコフと接点がある貴族もダメだ。私が嘘をついてるのがバレてしまう。
 嘘だとバレない程度の距離感で、かつ上位貴族だったら……。

「今朝届いたこの、お前宛てに届いた手紙の相手……ではないか?」

 そう言って背中に隠していた手をスッと顔の高さまで持ち上げた。
 マルコフの手に握られていたのは、真っ白な便箋と、赤い封蝋。
 その封蝋には貴族の家紋の印を押されているが、この距離からではどこの家紋なのかがよく見えない。