「パパ。これは私がはじめて自分で興した事業なのですよ。これがどれだけ大変な事か、事業主としてパパなら分かってもらえますよね?」
「ああ我が愛しの娘よ。もちろんだとも」

 これは間違いなく、分かってないわね。
 がははっと大口開けて下品に笑うこの感じは、全然真剣に私の話を取り合ってない証拠だ。

 まぁ、マルコフは私がビジネスを興して成功する事よりも、力のある爵位を持つ貴族の誰かと結婚することの方が喜ばしいもんね。
 そもそもお金ならマルコフの事業で十分あるし、むしろ私が仕事なんてして殿方が嫌煙しないかどうかの方が心配なんでしょうけど。
 なにせこの世界は女性は大人しく家の中にひきこもってる方が美徳とされた、古き良き時代と言われた日本と同じ思想を持ってるから。

「でしたらパパは何もせず、ただ黙ってこのビジネスが上手くいくことだけを願っていてください。決してバービリオン侯爵様との仲を拗らせるような事はなさらないで下さいませ」
「もちろんだとも!」
「決して縁談を結ぼうだなんて事も、考えないと約束してくださいますか?」

 ハッキリと言っておかなければ、マルコフは間違いなく自分の利益を勘定して私の邪魔をするはずだ。
 商人で、成り上がりの貴族なだけあって、遠回しな言葉では彼には届かない。ストレートに伝えたところで届くわけもないけど、キチンと承諾を取っておくのは悪くない。