そもそもレオンとマリーゴールドの出会いは、あるパーティでキールに言い寄られていたマリーゴールドをドラマチックに助けるのがはじまりだ。
 乙女が恋に落ちるにはバッチリなシチュエーションにして、ハラハラドキドキ、まるでジェットコースターに乗ってる時のような感覚を読者にも与えるように描き上げた、私の注力したワンシーン。
 だからレオンは何も心配せず、その身ひとつでマリーゴールドに会えばいいのだけど……まぁ、本人はそんな事知る由もないわよね。

「ではこうしよう。トリニダード令嬢が作ったその香水を作るのならば、私が金銭的な支援をしよう。媚薬効果のある香水として売り出せば、話題性も高く、買い手も多いと思うのだが?」
「それは……」

 悪くない話だ。
 でも支援してまで、その媚薬香水が欲しいの? なんで?
 ビジネスにシフトを合せて話をしてるけど、結局は自分も手に入れたいからでしょ? 先にそういう話をしちゃってるんだから、そこは否定できないわよ?

 疑問が脳裏をよぎるけれど、レオンが支援してくれるのなら信用はできる。
 しかもキールから邪魔が入ったとしても、パトロンがレオンだと分かれば、むやみやたらに手は出せないはず。
 肩書きこそレオンはキールよりも下にあたるが、レオンは帝国一とも呼べる騎士。手柄もたくさんあげている。
 その上バービリオン侯爵家はコーデリア公爵家よりも家柄は古い。
 帝国内では由緒正しい数少ない家柄とも言える。

「どうだ? これでも納得できないのならば、さっき言っていたお詫びとやらを、ここで使わせてもらってもいいが」

 ああ、ダメ押し。
 私は静かに首を縦に振った。

「……わかりました。では、キチンと書面にて契約を結びましょう」

 こうして私とレオンの間に、おかしなビジネスの関係が結ばれた。