私の推しのイケメンの前でひっくり返るなんて失態を起こすなんて……って、そう思っていたけど。


「……本当に危なっかしい人だ」


 ホッと息を吐いたのが聞こえて、私はそっと目を開けた。
 さっき香った清涼感のある甘い香りが、私の体を包み込んでいるような、なんとも不思議な感覚を覚えた。
 私の腰を支える、ガッチリとした腕。眉間にはハッキリとした深いシワを刻みながらも、心配そうに揺れる青い瞳。
 そんな状況に驚いた私は、レオンの整った顔面にーービタンッ、と音をかき鳴らして平手打ちを食らわせた。

「いっ……!?」
「ごごごごごっ、ごめんなさい!」

 自分の起こしたこの状況に、さすがの私も引く。ドン引きだ。
 よりによって助けてくれた相手に平手打ちはない。
 いや、平手打ちというか、相撲でいうところのツッパリ?
 勢い余ってどすこい! と、彼の顔を遠ざけてきしまった。
 あまりの勢いにレオンの首からグキッって音が聞こえたし、ツッパリの勢いも良すぎて本当にビンタみたいになってたし。

 ただ、あらぬ方向へと顔を向けさせられたにも関わらず、レオンはしっかりと私を抱きかかえてくれている。
 さすがは帝国の騎士。ちょっとやそっとでは揺るがない身体力。